国際的に輝かしいキャリアをお持ちの指揮者・瀬山智博さん。
フェニーチェ堺5周年を記念して、2025年2月に瀬山さんの指揮でベートーヴェンの「第九」が演奏されます。期待ふくらむ公演に向けてお話をうかがいました。
◎Interviw/Text 磯島浩彰
―ベートーヴェンの「第九」は、クラシックファンならずとも聴く機会が多いメジャーなプログラムです。「第九」にどのような思いをお持ちでしょうか。そして、どのような「第九」を作りたいとお考えですか?
幼少期にピアノを始めたころからベートーヴェンは特別な存在です。世の中にある交響曲の中でもベートーヴェンの「第九」は頂点に位置しています。交響曲というジャンルにソロ歌唱と合唱を加えたことや、全体としての構成もそれまでになかった革新的なアイデアがたくさん詰まっています。人類愛に満ちたこの作品の理念が伝わるような演奏を目指しています。
―「第九」は多くの指揮者がタクトを振っていて、よく使用する楽譜の事が取り上げられます。瀬山さんはベーレンライター版というのを使用されるそうですが、ブライトコプフ新・旧版など、他の版と比べてどこが違うのか、簡単に特徴を教えてください。
ベーレンライターの楽譜には自筆譜などの資料に基づいた細かなアーティキュレーション(音の形を整え、音と音のつながりに表情付けを行う演奏技法。スラーやスタッカートなど)や強弱記号が施されています。楽譜というのは自筆譜、初演時のパート譜、当時出版された楽譜、など数ある資料が存在しますが、時には編集者による独断の解釈によって作曲家が本来描いたことが改竄されることがあります。膨大な情報をまとめて我々の手に届くよう出版したということにおいてベーレンライターの功績を信頼しています。
―瀬山さんはウィーン国立音楽大学指揮科に在籍中に、ウィーン楽友協会合唱団に入団されています。またウィーン少年合唱団の指導も務められました。名門合唱団での活動は、現在の瀬山さんにどのような影響を与えていますか? 今回のように、地域の市民合唱団を指導される上で大切にされていることと合わせてお願いします。
ウィーン楽友協会合唱団に入り数多くのコンサートで世界のオーケストラ、指揮者と共演したことはとても貴重な経験でした。指揮者は音を出さないので、奏者側から指揮を観察し、オーケストラと共に演奏したことは実に有意義でした。第九も何度も歌いましたが、2009年のティーレマンとウィーン・フィルとの演奏は映像化されてるので、若かりし日の私を観ることができます(笑)。ディクション(歌唱発音)については妥協することなく、いつも大切に取り組んでいます。ドイツ語は日本語と違う舌の使い方、口の筋肉が必要なので、すぐにマスターできることではありませんが、繰り返し練習しトレーニングすれば必ず身になっていきます。言葉を勉強することは日々の繰り返しが大切です。
―初めて「第九」を聴いた皆さんがおっしゃるのが、お馴染みの「歓びの歌」のメロディーが登場するまで相当な時間がかかって驚いたということです。「第九」の楽しみ方を教えていただけますか?
1楽章から4楽章までの構成は人生そのもので、ベートーヴェンが追い求めた、人類の向かうべき場所が示されています。そこには混沌と苦悩、享楽、そして愛と祈り、といった人間の様々な側面が描かれています。1楽章から繋がる音楽ドラマを体験してこそ、“歓びの歌“が真の“歓び“になるのです。
―フェニーチェ堺には、2023年8月に『子どものためのオペラ「まほうのふえ」~パミーナ姫のたんじょうび』公演の指揮者として、大阪交響楽団と共に出演されています。会場となるフェニーチェ堺大ホールや、今回も共演する大阪交響楽団やの印象はいかがでしょう?
フェニーチェ堺さんは外観、ホールの内観も大変美しくデザインされています。大ホールはオーケストラの響きと歌声がよく調和するホールです。昨年の「まほうのふえ」ではホールのスタッフのみなさまにとても素晴らしい仕事をしていただき、最高のコンディションを作っていただきました。大阪交響楽団さんとはこれまでに何度も共演させていただいておりまして、すてきなアンサンブルを奏でてくださいます。シンフォニーオーケストラとしての魅力もありますが、オペラもよく演奏されていますし、歌声と融合してサウンドを創ってくださるオーケストラです。
―最後にファンの皆様にメッセージをお願いします。
フェニーチェ堺さんの記念すべき公演のステージに立てることはとても光栄なことで、嬉しく思っています。2025年2月23日、堺の街に“歓びの歌“を響かせます。ご期待ください。
【写真】瀬山智博:Gerhard Peyrer 大阪交響楽団:飯島隆
瀬山 智博(せやま ともひろ)
これまでにドイツのマクデブルグ歌劇場、デッサウ・アンハルト州立歌劇場、スイスのヴィンタートゥール歌劇場などの歌劇場で指揮者を務め、オペラとシンフォニーの両分野において国際的な活動を続けている。2008年にドイツのアーヘン市立歌劇場のコレペティトールとして活動を開始。2009年にウィーンのシェーンブルン宮殿歌劇場でモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」を指揮してヨーロッパデビュー。ブレゲンツ音楽祭副指揮者、グラフェネッグ音楽祭やトリノ王立歌劇場および兵庫県立芸術文化センターにおいて佐渡裕氏のアシスタント指揮者を務める。2016年からはドイツ・マクデブルグ市立歌劇場のカペルマイスター(専属指揮者)として活動。ビゼー「カルメン」、ニコライ「ウィンザーの陽気な女房たち」など数々の公演を指揮し好評を博した。2003年からはウィーン楽友協会合唱団のメンバーとして研鑽を積み、同合唱団コレペティトールとして活動。その他、トーンキュンストラー管弦楽団アシスタント指揮者やウィーン少年合唱団の指導を務めるなど活動の場は多岐にわたる。大阪音楽大学ピアノ科、ウィーン国立音楽大学指揮科および同大学院修了。シエナ・キジアーナ音楽院オーケストラ指揮ディプロマ所得。ブザンソン国際指揮者コンクールファイナリスト。