5年ぶりにフェニーチェ堺に「フィルハーモニック・オーボエ・カルテット」が戻って来る。ベルリン・フィルのオーボエ奏者クリストフ・ハルトマンと世界屈指の実力を持つ弦楽器奏者3人が奏でるモーツァルトの歌劇「魔笛」は歌心溢れる演奏で、まさに歌劇を聴いているよう。嬉しいことに今回のコンサートでも、指揮者の佐渡裕がナレーターを務めるという。「5年前にフェニーチェ堺でいただいたお客様の温かい拍手はよく覚えている!」と語るクリストフ・ハルトマンに、コンサートの聴き所や、指揮者 佐渡裕との関係などを聞いた。
——2019年に続いて、フェニーチェ堺でコンサートをされます。前回の公演について、何か印象に残っているようなことはございましたか。
フェニーチェ堺での演奏会のことはよく覚えています。お客様から心のこもった温かい拍手を頂きました。今回、再び堺市に戻って来られることを楽しみにしています。
——コンサートの前半は、オーボエとコールアングレを持ち替えて四重奏曲を演奏されます。モーツァルトのオーボエ四重奏曲は有名ですが、フランセのコールアングレ四重奏曲は比較的演奏機会の少ない曲です。それぞれの曲について簡単な解説と、二つの楽器の魅力を教えて下さい。
おっしゃる通り、モーツァルトのオーボエ四重奏曲は有名です。18世紀の偉大なオーボエ奏者のために書かれた、とても技巧的な曲です。オーボエの全ての魅力が詰まっており、聴衆は笑顔に包まれます(笑)。フランセのイングリッシュホルン(コールアングレ)四重奏曲も素敵な曲です。特徴的なのはジャズ的なリズムが用いられていることです。フランセの作品はどれも面白くて特別な空気感を生み出します。イングリッシュホルンは楽器としてはオーボエ属のテノールの領域です。温かみのある魅力的な色合いの音色は、フランセの美しい旋律にピッタリです。
——前回に続いて、今回もモーツァルトのオペラ「魔笛」(ロシナック編曲版)を演奏されます。ナレーターは今回も指揮者の佐渡裕さんが務められます。この曲の魅力と、聴き所などを教えて下さい。
オーボエ四重奏編曲版は、モーツァルトの名曲「魔笛」を気軽に楽しめる最適な編成だと思います。既に作品を知っている人は、有名なアリアや名場面を想い出し、楽しめることでしょう。ナレーターを務めるユタカのジョークを交えたナレーションも相まって、楽しい一夜になることでしょう。ユタカは我々の“友人”です。今までに何度も共演し、良い関係を築いてきましたし、何年も前から彼が率いる兵庫芸術文化センター管弦楽団のトレーナーを手伝っています。このコンサートの中ではユタカは日本語でナレーションをしますので、私たちは彼がどんなジョークを言っているのか分かりません。日本語がうまくないのが残念です。ユタカは共感を呼ぶような話をしてくれるので、お客様はとても喜んでくれます。日本のお客様はユタカと良い時間を過ごしているんだなと思いながら演奏しています。
——「フィルハーモニック・オーボエ・カルテット」のメンバーについて、簡単で結構ですので紹介してください。
昔、オーケストラの同僚たちと私の故郷で「ランツベルク夏季音楽祭」という室内楽フェスティバルを立ち上げました。この音楽祭以外でも、年間を通してオーケストラ以外の沢山の室内楽曲を演奏しました。必ずオーボエ・カルテットの演奏会もありましたが、それが数年後に「フィルハーモニー・オーボエ・カルテット」になったのです。メンバー達はもちろん音楽以外の部分でも良い友人です。
ヴァイオリンのルイス・コエーリョは、メンバーの中で最も若い奏者です。彼はブラジル出身ですが、若いころにベルリンに来ました。ベルリン・フィルに入団する前はカラヤン・アカデミー生としてベルリンで学びました。
ヴィオラのワルター・ケスナーはベルリン・フィルに古くからいるメンバーの一人です。1980年台後半から彼はベルリン・フィルのメンバーです。彼の奥さんは日本人ピアニストで、私は学生の頃、彼女といつも日本で演奏していました。ですので、私たちは非常に古い付き合いです。彼は非常に多くのインスピレーションを与えてくれる音楽家ですが、素晴らしいチェス・プレイヤーでもあります。
チェロのクレメンス・ヴァイゲルは私の最も古い友人です。私たちはミュンヘンで共に学び、アパートでルームシェアをしていました。彼以上に一緒に室内楽を演奏したいと思える奏者はいません。40年もの間、共に音楽を創ってきた間柄です。
つまり、メンバー全員、第一級の音楽家であり素晴らしい仲間。良き友人たちと演奏できるアンサンブルが、私にとって「フィルハーモニー・オーボエ・カルテット」なのです。
——前回が312席の小ホール。今回は2000席の大ホールで演奏会が行われます。チケット購入がまだお済みではない方に向けて、メッセージをお願いします。
モーツァルトの音楽を四重奏で聴くというのは、オペラの世界の良い入口になると思います。楽しんでいただけると同時に、勉強にもなると思います。ユタカのユーモアあふれるナレーションがあれば、時が過ぎるのも忘れることでしょう。また、演奏会の前半では、感動的で面白く、煌めく曲を演奏します。クラシック音楽への飢餓感を煽るような演奏をしたいと思います。クラシックは決して退屈ではありません。いろいろな発見があるはずです。皆が音楽を好きになってくれたら嬉しいです。フェニーチェ堺の演奏会に皆さんをお迎えするのを心から楽しみにしています。ユタカと一緒に、忘れられない一夜にできるよう、全力を尽くします。堺でお会いしましょう!
聞き手:磯島浩彰
——堺は自転車とゆかりのある街としても有名ですが、クリストフ・ハルトマンさんは自転車もオーボエと同じように大好きですとお伺いしました。自転車が好きな理由と自転車が好きな人たちに向けてメッセージをお願いします!
その通り、私の情熱の多くは自転車にあります。私は友人と一緒に、2005年からベルリンで自転車屋を運営しており、2005年に「パスカリ」という自転車のブランドを立ち上げました。当然のことながら、パスカリの自転車は私が最も愛する自転車です。私にとっては自転車で山を走るのが最高で、山も私の居場所でもあります。残念ながらベルリンには山がそんなにありません。ですが、しばらく前からフライブルクにオーボエを教えに行くようになったのですが、フライブルクには自転車で走るのに最適な山があるんです。私は旅行に持っていける折り畳み式の自転車を持っています。なので日本に来るときや様々な演奏旅行でが、ほとんどそれを持ってきています。神戸周辺の山にはすっかり詳しくなりました。日本アルプスにも行ったことがあります。シマノを生んだ街である堺で演奏できるのは、わたしにとって大きな喜びです。